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2007年05月06日

●イギリス●セント・トーマス病院の"ナイチンゲール"(城戸まゆみ)

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*セント・トーマス病院内にある教会。宗教・宗派に関係なく参拝できる

医師は医学部を卒業するときに「ヒポクラテスの誓い」、看護師は戴冠のときに「ナイチンゲール誓詞」を誓い、医学の父、看護の母と讃えられる先人の精神を受け継ぎます。それでは、薬剤師は?
これから薬学6年制に対応した新カリキュラムの薬学教育が始まろうとしています。クリミア戦争の後、90年の生涯をかけて近代看護学の普及に尽力したナイチンゲールの精神。看護教育と薬学教育、何かリンクするものないでしょうか。そんな想いを持ちながら訪問した「セント・トーマス病院」と病院に隣接する「ナイチンゲール博物館」を紹介します。

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*セントラルホールのナイチンゲールの像
ロウソクを手に病傷兵を看るナイチンゲールの像を中心に病院を通じて社会に貢献した先人達の勲章が並ぶ

イギリス、ロンドンの総合病院であるセント・トーマス病院は、テムズ川を挟んで国会議事堂(ビックベン)の対岸にあります。ナイチンゲールが世界最初の看護学校を設立したのは、ロケーションにも恵まれたこの病院です。病院玄関には「24時間オープンで、地域の医療に貢献します」の文字。中に入ると左手に外来患者に対応する薬剤部、右手に売店。売店側の通路を抜けると静けさが漂うセントラルホールがあります。中央にナイチンゲールの像、そして像を慕うように置かれた硝子ケースには、当病院に貢献した人に捧げられた数多くの勲章が飾られています。救急病棟、集中治療室。24時間体制で患者を看ることができるよう病室内に設置されたナースステーションは、クリミア戦争中、寝る間を惜しんで看護に専念したというナイチンゲールの姿を思い起こせます。病状が落ち着いた患者さんは一般病棟に移され、退院の準備をします。退院してからも服薬管理を自分で行えるように、薬箱は1人1人のベッドサイドに備え付け。薬は箱のまま患者さんに渡され、入院中の薬の服用歴は患者さん毎の「薬歴カード」で管理されています。各病棟の担当薬剤師が薬の相談役です。病人を救うのは何よりも衛生環境であるというナイチンゲールの看護理論が受け継がれ、病院内はどこも清潔で整理整頓されていました。

病院に隣接するナイチンゲール博物館では、ナイチンゲールの生涯をまとめたビデオやジオラマを見ることが出来ます。博愛の精神で行った看護や後身の指導に当たる日々を送る中での執筆活動。彼女は生涯に150の本と12000通の手紙を書いたそうです。そしてその手紙の大半が世界各地から看護と衛生に関して送られてきた質問状への回答だったということ。90歳に亡くなるまで、勉学を惜しまず、また自分の知識を世界中に伝え、積極的に社会へ貢献したナイチンゲールの叡智とその根本の精神は、看護師だけではなく医療の担い手ある全ての職種に受け継いでいかなければと感じます。(2003年3月取材)

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*ナイチンゲール(Nightingale 1820-1910)
英国の裕福な上流家庭の次女として生まれる
出生地は両親の旅行先のフローレンス(イタリア、フレンツェ)であったので、フローレンス=ナイチンゲール(Florence Nightingale)と名づけられる
1854-56年に従軍看護婦団の婦長として、クリミア戦争の傷病兵の看護にあたり、以後、看護や病院管理、軍の衛生管理等の改善にその生涯を捧げる

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*ベッドサイドに設置された薬箱
扉を開けると4種類の薬が箱のまま投与され保管されている

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*セント・トーマス病院一般病棟からの眺望
ロンドン市内中心部の便利な場所に位置しながら、テムズ川対岸にイギリスを代表する建築物ビックベンを観ることができる